
失踪した娘を捜す父親が〈8年間の空白〉に迫るサスペンス・ミステリー
にわかには信じがたいことだが、私たちが暮らすこの社会では、ある日突然、神隠しのように“人が消える”という出来事が起こりうる。ミッシング・パーソンと呼ばれるそうした現象は、むろんオカルトの類いではないが、多くの場合、誘拐などの犯罪なのか、何らかの偶発的な事故なのかもわからない。残された家族の前には、愛する者を抱きしめられなくなった厳然たる現実のみが横たわり、やるせない喪失感に打ちのめされる。謎だらけの少女失踪事件の驚くべき成り行きを映し出す『白い沈黙』は、出口の見えない哀しみの迷宮に囚われ、それでも一縷の希望を捨てない男を主人公にした濃密なサスペンス・ミステリーである。
カナダ・オンタリオ州の雪に閉ざされた街を舞台にした物語の出発点は、小さな造園会社を営むマシューが帰宅途中にダイナーに立ち寄ったこと。店内で買い物をしているほんの数分の間に、車の後部座席に残した9歳の愛娘キャスが忽然と消えてしまったのだ。マシューは何者かによる誘拐を主張するが、犯罪を示す物的証拠も目撃情報もなく、捜査を担当する刑事たちの疑惑の目はマシューに向けられる。それから8年後、妻のティナと別居したマシューは、娘を守れなかった自責の念に駆られながら孤独な捜索を続けていた。そんなある日、刑事がネット上でキャスに似た少女の画像を発見し、その後も彼女の生存を仄めかす手がかりが次々と浮上する。それはいったい誰が、何のために発したサインなのか。キャスは本当に今も生きているのか。やがてマシューの行く手に待ち受けていたのは、空白の8年間をめぐる想像を絶する真実だった……。
名匠アトム・エゴヤンが斬新な語り口で誘う〈白い沈黙〉の世界
第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、大きな反響を呼んだこの衝撃的な問題作を手がけたのは、カナダを代表する名匠にして著名な国際映画祭の常連監督であるアトム・エゴヤン。失踪した娘を捜し続ける父親が、事件発生後8年目にして意外な形で発見された“生存の手がかり”に翻弄されながらも、必死の思いで真相に迫っていく姿から目が離せない。また観客を幻惑し、挑発するかのように時系列を複雑に錯綜させ、なおかつ欠落したパズルのピースを埋める鮮やかな手並みで、幻のごとき失踪事件の全体像を浮かび上がらせる独特の語り口は、ミステリー好きの観客の感性を大いに刺激するに違いない。
また、オープニング・ショットから見わたす限り白銀の世界が広がる舞台設定は、エゴヤン監督による1997年の代表作『スウィート ヒアアフター』のイメージを喚起させ、不可解な犯罪の深淵に切り込んだ内容は2013年の前作『デビルズ・ノット』に通じるものがある。さらにトラウマを抱えた登場人物の内面をあぶり出しながら、一般市民のプライバシーを脅かす監視カメラ、インターネット上にひしめく非合法ポルノサイトといった深刻な社会問題を鋭く考察。繊細なエモーションや危ういスリルをはらむ“白い沈黙”に閉ざされた映像世界は、まさに唯一無二のエゴヤン・ワールドである。
ライアン・レイノルズと実力派のスタッフ&キャストが結集
得体の知れない深みを感じさせる人間模様を、迫真のアンサンブルで体現したキャストも実力派揃いだ。失踪した少女の父親マシューを演じるのは、『[リミット]』『デンジャラス・ラン』のようなサスペンス快作からコメディまで多彩な役どころをこなすライアン・レイノルズ。今後も数多くの話題作の公開を控えるとともに、セレブ女優の妻ブレイク・ライヴリーとのプライベートも注目される“今が旬”のスター男優である。
そしてTVシリーズ「THE KILLING ~闇に眠る少女」や『デビルズ・ノット』で並々ならぬ演技力を発揮してきたミレイユ・イーノスが、マシューの妻ティナに扮し、娘を想い続ける母親の失意と情愛を表現。加えて『トランス』『シン・シティ 復讐の女神』のロザリオ・ドーソン、『死ぬまでにしたい10のこと』『アンダーワールド』のスコット・スピードマンが刑事役でドラマに厚みを与えている。さらに撮影監督のポール・サロッシー、音楽のマイケル・ダナといったエゴヤン組の熟練職人が集結。名匠の指揮のもと、充実のスタッフ&キャストが一丸となってオリジナリティあふれる“白い沈黙”を構築し、観る者をめくるめくミステリーの彼方へと誘ってくれる。